歯を削る機械「タービン」ってどんな機械？

歯科医院での治療中、「キーン」という鋭い音に驚いたことのある方も多いのではないでしょうか。この音の正体は、「タービン」と呼ばれる歯を削るための機械によるものです。タービンはむし歯の除去、詰め物や被せ物を作る前の形作りなど、さまざまな治療で活躍する歯科治療の要ともいえる存在です。今回は、そんなタービンの仕組みや特徴について、わかりやすくご紹介します。
タービンは、正式には「エアタービン」と呼ばれ、圧縮空気の力で内部の羽根車（タービン）を回転させ、その回転力で先端の「バー」と呼ばれる金属製の器具を高速で回します。この回転速度は毎分30万回以上にも及び、非常に硬い歯の表面や人工の材料を効率よく削ることができます。この高速回転により、短時間で必要な部分を的確に処理できるため、治療の効率が高まり、患者さんの負担を減らすことにもつながっています。
しかし、歯を高速で削るという行為には摩擦が伴い、その摩擦によって熱が発生します。歯の内部には神経があり、高温が加わると強い痛みを感じたり、歯の神経がダメージを受けてしまったりするおそれがあります。そこで重要になるのが、タービンの「水冷却機能」です。
タービンには細いノズルがついており、治療中に水が絶えず噴き出すよう設計されています。この水は、歯を削った際に発生する熱を瞬時に冷却する役割があります。これにより、歯の温度上昇を防ぎ、神経や周囲の組織へのダメージを最小限に抑えることができます。歯の神経は可能な限り残すことが重要です。処置後に症状が出て神経をとらないようにするためにも神経にダメージを与えないようにする冷却は重要です（神経をとらないようにするためには他にも色々テクニックがあり、当院ではできるだけ神経をとらない治療を心がけています）。また、冷却水は歯を削る際に生じる削りかすや細かな粉じんを洗い流す作用もあり、治療中の視野を確保するうえでも欠かせません。
この水冷機能は、タービンの回転と連動して自動的に作動する仕組みになっており、操作する歯科医師が特別に意識しなくても、常に最適な量の水が噴出されるようになっています。さらに、治療中に口腔内に水がたまらないよう、バキュームと呼ばれる吸引装置を併用することで、不快感を軽減しながらスムーズに処置を進めることが可能です。
タービンの使用には、歯科医師の技術と経験が欠かせません。高速で回転する器具を使いながら、必要な部分だけを正確に削り取るためには、手先の繊細な感覚と判断力が求められます。たとえば、むし歯が神経に近い場合は深く削りすぎないよう注意が必要ですし、詰め物や被せ物を正しくフィットさせるためには、削った面がなめらかで精密である必要があります。
さらに、タービンの先端に取り付ける「バー」にはさまざまな形状や材質のものがあり、治療の内容に応じて使い分けることで、より安全で効率的な処置が可能となります。たとえば、むし歯の部分だけを除去したい場合には、先端が細く操作性の高いバーを使用し、被せ物の土台を整える際には広い範囲を滑らかに削れるバーが使われます。
このように、タービンは単に「歯を削る道具」というだけでなく、治療の質や安全性、患者さんの快適さに大きく関わる重要な器械です。治療中の「キーン」という音や振動に不安を感じる方もいるかもしれませんが、それは歯科医師が正確で丁寧な処置を行っている証でもあります。
歯科治療の現場では、目に見えないところでさまざまな技術や工夫が積み重ねられています。タービンはその代表的な存在であり、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最善の治療を提供するための大切な道具です。次回治療を受ける際には、この小さな機械がどのように活躍しているか、少しだけ思い出していただけると嬉しいです。